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2006年11月26日

台所太平記 谷崎潤一郎

 解説によると、昔の日本ではほとんどの場合中流家庭以上に女中さんがいたという。今ではすっかり時代が変わってしまった。「女中さん」という言葉自体が古めかしい。今なら「家事手伝い」と言ったところ。この本はそんな昔の話だ。

 東京生まれなのだが関西に移住したという、何やら著者である谷崎を思わせる主人公の家に訪れた女中たちの観察記録のような体裁になっている。僕は女中のいるような家庭で育った訳ではないので、血の繋がっていない人間が家にいるという状況を経験したことが無い。女中と聞くと、なんだか召使いのようなイメージを持ってしまう。悪くすると奴隷に近いようなイメージだ。上に立って、人を使う。使われる人にはこれっぽっちの人権も慈悲も与えられない。こんなイメージなってしまうのだが、本に登場する女中さんと主人との関係はそうではない。もっと暖かみのある関係なのだ。

 主人である磊吉が散歩に行く。映画を見に行く。このような時に磊吉は、お気に入りの女中を伴っていく。この本を読む限りでは、女中さんの立場はそれほど下では無いように思えるのだ。女中さんというか、使用人というと、映画ドライビング・ミス・デイジーに出てくるモーガン・フリーマンのようなイメージを持っていた僕の予想は完全に裏切られた。まぁドライビング・ミス・デイジーでも女主人が厳しく使用人にあたるのだけれど、実は心の交流があったりして、そこが泣かせるのだけれど。

 僕にもしもお金があったとしても、そのような暖かい感じで人を使えるのかな。人を使うというのは僕の最も苦手とするところなので、なんだか必要以上に偉ぶったり、自分を卑下してしてしまうような気がしてならない。ホテルに泊まる時にもそれを痛感する。ホテルのボーイさんが荷物を持ってくれそうになると、なんだかとても悪いことをさせているような気がしてしまう。結局自分で持ってしまう。ただ単に貧乏症なのかもしれないね。

 いずれにしても女中さんや召使いとの関係を悩まなくてはいけないほどのお金が僕には無いことだけは確かなことです...。

台所太平記
台所太平記谷崎 潤一郎

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star掘り出し物でした。

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2006年08月22日

魔女の1ダース

 「魔法使いの集会に行ってみませんか」
この本の出出しはこう始まる。魔法使いの集会...なんとも蠱惑的な響きである。エッセイのタイトルからして「魔女の1ダース」だ。登場する魔女は「魔女の宅急便」に出てくるような箒を持った優しい魔女ではないだろう。だって集会してしまうのだ。そりゃ本格的な魔女ならば、箒で空を飛ぶことなんかとうの昔に飽きてしまっている。彼女たちの関心は、いかにお洒落に空を飛ぶことになんかにはもうないのだ。今一番の関心事はきっと世界征服に違いない。しかも誰にも気づかれないようにそっと世界を支配する手段を練っているのに違いないのだ。
 なんてことを書いたけれど、この本は最新の魔女の動向に関する調査報告書ではありません。米原万里さんのエッセイ集です。彼女は子供時代を父の仕事の関係でチェコスロバキア(現チェコ)のプラハで過ごしたいわゆる帰国子女である。プラハではソ連の外務省が直接経営する外国共産党幹部子弟専用のソビエト学校に通ってロシア語で授業を受けたのだという。日本に帰国後、東京外国語大学、東京大学大学院で学んだ米原さんはロシア語の通訳をすることになり、そこで経験したことをエッセイで綴るようになった。
 米原さんのエッセイには多くの小咄が登場する。ただ可笑しいだけではない。そこには必ずと言っていいほど揶揄が入っているのである。そしてその揶揄は権力者や強者に対して向けられる。日本という社会と、共産圏という社会の違う価値観の中で過ごした経験のある米原さんは、異なる世界観や価値観の片方を無意味に持ち上げたりはしない。狭間で揺られながら冷静にその両方を観察し、そのどちらに対しても毒を吐く。世の中に毒舌の人は多いけれど、その毒の中にウィットを混ぜることの出来る人はそうそういない。惜しい人を亡くしたものである。

魔女の1ダース―正義と常識に冷や水を浴びせる13章
魔女の1ダース―正義と常識に冷や水を浴びせる13章米原 万里

おすすめ平均
stars勉強になりました。
stars読まなきゃ損
starsロシアとは何か
stars必読
stars世界はひとつ、ではない。ハラショー

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2006年08月17日

ユーモアの国

 イギリスはユーモアの国。この本はその信念に貫かれている。確かにユーモアがなければ「空飛ぶモンティ・パイソン」のようなテレビ番組は作れないだろう。日本で言うところのNHKに相当する公共放送のBBCが、これだけ下らない番組を作るなんてやはりただもの国ではない。
 本を開いてまず最初の章のターゲットは、ずばり国王である。イギリスでは国王をジョークの種にするという伝統があるのだという。おお〜、凄い!エリザベス一世の肖像画の前に立つエリザベス二世の写真では、エリザベス二世に「あなたは正しかったわ。子供なんて作るものじゃないわね!」なんて台詞を言わせてしまう国なのである。作る子供作る子供が結婚・離婚を繰り返しているエリザベス二世と生涯結婚しなかったエリザベス一世を比較してジョークとしてしまう。王位継承権第一位であるチャールズ皇太子の不人気さゆえに仕方がないのかな、なんて日本人の僕も納得してしまうと言うか、失笑してしまう。数々のジョークを目の当たりにした著者は「時代を超えて、一人ひとりの国王の性別と資質を越えて、何らかのかたちで国民に笑いを提供できるというのが、イギリス国王たるものの基本条件となる、ということである」という結論に達するのであった。イヤ〜、凄い。日本で天皇及び皇族を茶化したら大変だ。右の人たちから総攻撃を喰らってしまうだろう。君が代をロック調にしただけで大事になってしまった。それに引き換え、イギリスのロックグループのクイーンはアルバムに「GOD SAVES THE QUEEN」のイントゥルメンタルを入れているのに何も問題になっていない。
 イギリス人が物笑いの種にするのは何も王室だけではない。聖書でさえもそのターゲットになってしまうのだからもうあっぱれだ。ブッシュ大統領の支持団体であるキリスト教右派が読んだら卒倒してしまうようなネタが満載だ。一部を引用してみよう。これは十戒のパロディだ。
 「神は、光りあれと言われた。まぁ光はあるのだが、イースタン電力局から、つながるのは木曜日との連絡があった。神は光を見て、よしとされた。請求書を見て、ムッとされた。」
 全知全能の神であっても、請求書を送られるとムッとするのである。なんとも人間臭いではないか。こんな神さまならば、今度の週末にでも一緒に飲んでみたいと思う。 

笑う大英帝国―文化としてのユーモア
笑う大英帝国―文化としてのユーモア富山 太佳夫

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star英の方が米に比べて屈折してる
star笑いの効果には個人差があります

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2006年08月16日

下山事件

 ニートしていて日頃話し相手がいない僕は友人と飲みに行った時などにここぞとばかりに最近疑問に思っていることを投げかけたりしてしまう。僕の疑問が友人の疑問と重なる保証はなく、また友人が答えを知っている可能性も少ないので答えを得られないことが多い。代わりに友人が疑問に思っていることを逆に尋ねられてしまう。
 「あれってどういうこと?」
僕が分からないなとか、知らないなとか答えると必ず言われる。
 「暇なんだから調べておいてよ。」
 つい最近、逆質問を受けたものは「下山事件」についてだった。下山事件とは連合軍による占領中の1949年7月5日に、時の日本国有鉄道(国鉄)初代総裁・下山定則氏が、出勤途中に公用車を待たせたまま三越日本橋本店に入り、そのまま失踪、15時間後の7月6日午前零時過ぎに常磐線・北千住駅—綾瀬駅間で轢死体となって発見された事件のことだ。こんな昔の事件のことを知るわけがない。友人も60年近く前の事件に興味を持つとは変わった奴である。
 ちょっと調べると、この下山事件とは事件の真相が解明されておらず、いわゆる迷宮入りになったままということが分かった。自殺なのか、他殺なのか、他殺なら誰が下手人なのか、全てが分からないらしい。しかも亡くなったのは国鉄の総裁だ。約10万人近い空前絶後の人員整理を求められていた国鉄の総裁が亡くなったのである。
 本によると事件の背後にはアメリカの反共活動があったのではないか、共産党の影あるのではないかなど、謎が謎を呼び「戦後史最大の謎」と呼ばれているらしい。そのミステリーさに作家松本清張も「日本の黒い霧」というノンフィクション作品を書いてしまったほどだ。
 ミステリー小説などの中では、犯人を絞り込む時に誰が得をしたか、ということがポイントになることが多い。下山事件ではいったい誰が得したのであろうか。紐解いていくと、その答えは日本という国だったのかもしれない。

謀殺 下山事件
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