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2006年09月16日

権威に弱い

 中島誠之助さんの本を読んだ。あの「良い仕事してますねぇ」の中島さんの本だ。骨董商を営んでいる中島さんは今まで多くの偽物を見てきたと同時に、偽物に騙される人を見ている。あの中島さんでさえ、長い人生の中では騙されたこともあるのだと言う。中島さん曰く、権威に弱い人間ほど騙されやすい。特に日本人は権威に弱く、盲目的にそれを信じ込んでしまうことが多いようだ。骨董の世界では箱書きや鑑定書がそれに当る。箱書きや鑑定書がついていても専門家が見ると証明している訳でもなく、言い逃れしている箱書きや鑑定書が多いらしい。それでも素人はそれを頼りに価値があるものと思い込んでしまうのだ。
 僕も権威には弱い。僕にとっての身近な(?)権威は世界遺産だ。「ユネスコの世界遺産リストに登録されています」となってると、なんだか行ってみないと損してしまうような気がしてしまう。この前京都を旅行したときもその言葉に釣られて方々へ赴いてしまった。何せ「古都京都」は世界遺産の宝庫だ。京都で登録されている17の寺社と城のうち、実に9つの世界遺産を見てしまった。そしていつものことなのだけれど後悔した。
 「僕はユネスコの世界遺産リストに翻弄されている...。」
 ユネスコのホームページによると世界遺産とは「地球の生成と人類の歴史によって生み出され、過去から引き継がれた貴重な宝物」だそうだ。歴史の宝物です。だからビジュアル的に圧倒されるとは限らない。かつてその場所で歴史的な出来事があったりしたことは事実なのだけれど、見た目は「なんだかな〜」ということも十分にあり得る。京都の世界遺産の中では宇治上神社ががっかり世界遺産の名に相応しかった。本殿は日本最古の神社建築なのだそうだが、建築に明るくない僕には良く分からない。地味な建物にしか見えなかった。世界遺産でなければ通り過ぎてしまうだろう。
 上には上がいる。宇治上神社はまだましな方かも知れない。僕が訪れたことのある世界遺産の中でもっともがっかりさせられたのは、イランにあるスーサ(シューシュ)だ。紀元前4000年前から人が住んでいたスーサは、アケメネス朝ペルシャの時には都になった町。その後栄華を極めるものの、アレキサンダー大王によって陥落してしまった。大王がスーサの町にあった金銀財宝で遠征費用を全て賄えたくらいにこの町は繁栄していたようだ。しかし栄枯盛衰。今ではただの荒野だ。柱のひとつでも残ってやしないかと目を凝らしても、何も見えない。何もない。ところどころに穴が残っていたりするだけなのだ。砂まじりの風に曝されながら僕は呟いた。
 「なんでこんなところに来たのだろう。」
 やはりビジュアル的に刺激がある方が訪れて楽しいですね。でもこれからも世界遺産という言葉に敏感に反応してしまうのだろうなぁ。権威には弱いですから。

ニセモノ師たち
ニセモノ師たち中島 誠之助

おすすめ平均
starsニセモノ師たち
starsこれは面白い!!
stars魑魅魍魎が跋扈する骨董・古美術商の世界の面白さ
stars軽い気持ちで読み始めたが・・
starsつねに相手を称えて、同時に自分を売る

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2006年08月26日

赤い星

 エジプトの象形文字(ヒエログリフ)は長い間解読不能とされていた。エジプト文明が衰退と同時にその文字を使う人々がいなくなってしまったために誰も分からなくなってしまったのだ。その文字を再び読むことに成功したのは、ジャン=フランソワ・シャンポリオンというフランス人だった。彼の発想が優れていたのは「エジプトの象形文字はある時は表意文字として、またある時は表音文字として働く」と考えた点にある。そこで、まず表音文字としての機能から解読を始めた。彼はエジプト民衆語(デモティック)、ギリシャ語、ヒエログリフの三つの言語で文字が刻まれているロゼッタ・ストーンに刻まれた支配者の名前は言語を越えて同じ音であるはずとの仮説を立て、その解読に成功したのだった。つまり、ラムセスという名の王はデモティック、ギリシャ語、ヒエログリフのいずれでも文字が違うだけで「ラムセス」という音で表されているということである。
 確かに人名や都市名など固有名詞は言語を越えて同じ音で表されることが多い。東京はTokyo、あるいはTokioと記載されるし、アメリカの都市New Yorkは日本語でもニューヨークだ。
 そうなってくると自然と気になるのはその例外の方だ。言語によって同じものの固有名詞の音が違うものの方が気になってくる。手っ取り早く思いつくのは、中国人の名前である。同じ文字を使っているがために、日本での中国人名は中国語の読み方と異なっていることが多い。毛沢東は日本語では「もうたくとう」だけれど中国語では「マオ・ツォードン」、孫文は「ピンイン」と発音されるらしい。もしロゼッタ・ストーンが中国語と日本語の平仮名で記されていたら、シャンポリオンもお手上げだったかもしれない。
 地名でも勿論例外がある。オーストリアの首都であるウィーンだ。かつてヨーロッパの数カ国を支配したハプスブルク家のオーストリア帝国の首都であったこの都市の名は、当地ではWienと書いてヴィーンと呼ぶ。英語では英語ではヴィエナ Vienna、フランス語でヴィエンヌ Vienne。どれも日本語とは違う。日本語の呼び名はドイツ語表記を英語読みしていることになる。
 このようなことは何故だかサッカー・チームの名前でもあるのだ。その不思議なチームは「レッド・スター・ベオグラード」。ストイコビッチも在籍していたこのセルビアの名門チームは日本語ではレッド・スターと呼ばれる。レッド・スターは勿論英語だ。赤い星。ドイツ語ではRoter Stern、スペイン語ではEstrella Rojaと呼ばれ、いずれもやはり赤い星を意味する。その国の言語に紛れてしまうという珍しいチームである。当地ではやはりセルビア語で赤い星を意味する「ツルベナ・ズベズダ(Crvena Zvezda)」となり、これが正式名称だ。一人で繰り返し発音してみよう。
 ツルベナ・ズベズダ
 ツルベナ・ズベズダ
 ツルベナ・ズベズダ
なんだか後半部分がズタズタになってしまい、とても弱そうな響きがしてしまう。だから国ごとに呼び名を変えているのかもしれない。
 ちなみにイタリアのミラノ(イタリア語でもミラノ)に本拠地を置くチームがACミランと英語の地名になっているのは、もともと英国人が作ったクラブだからである。

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