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2006年12月05日

妖怪

 境港には妖怪がいる。東京の永田町にも妖怪が跋扈しているが、それとは種族を別にしているのだろう。人間に媚を売るような真似はしない。永田町にいる妖怪たちが仕立ての良いスーツに身を包み、顔には笑顔があったりして一見すると妖怪とは気がつかない場合が多いが、境港のは違う。見てすぐに妖怪と分かる。一番の違いは、境港の妖怪は人間の欲や怠惰さに付け込むことはあっても、正直に生きている人間に害は及ぼさないところだ。

 境港のメインストリートである水木しげるロードには、沢山の妖怪のオブジェが置かれている。そう、ここは「ゲゲゲの鬼太郎」の作者である水木しげるさんの故郷なのだ。境港の駅から水木しげる記念館への道ばたには、水木さんが命を吹き込んだ妖怪たちで立ち並んでいる。

 それにしても沢山の妖怪がいるものだ。名前を知らない妖怪も沢山いた。ろくろ首や座敷童など、それなりに著名な妖怪は21世紀になっても自力で生き残ったのかもしれないが、その他大勢の妖怪たちは水木しげるさんの漫画がなければ、とっくの昔に忘れ去られ、博物館の中に納まっていたのかもしれない。そのような妖怪に取って水木しげるさんは、足を向けて寝られない存在だ。

 訪れたのが平日ということもあって、妖怪たちは誰にも相手にされず、少し寂しげであった。小雨の降る中、無言で立ち尽くしている。チョッカイを出す人間が周りにいないのだから仕方がない。妖怪は人間をおちょくってこそ、妖怪なのであって、人間から相手にされなかったら妖怪としては失格なのだ。その証拠に多くの妖怪は、人間の浅ましさや愚かさを狙って登場する。妖怪は生きていく人間の闇の部分を姿に現したものなのかもしれない。

 人が生きていくのには、多くの戒めが存在する。その多くは合理的とは限らない。人を殺してはいけないという戒めでさえも、いけないということはほとんどの人間によって共有されてはいるものの、その合理性を明確、そして簡潔に述べることは難しい。だから間違っているということではない。合理的な理由がなければ間違っているという訳ではないのだ。無批判に受け入れなければならないことも世の中に存在する。しかし合理性を追求するあまり、人間は闇の部分を捨ててしまったのではないだろうか。妖怪という存在によって、闇が闇であり続けることができた時代は終わりを告げ、今は人間が人間のままでかつての闇の部分を曝け出し始めたのではないだろうか。最近の凶悪事件を見ているとそんな気さえしてしまう。

 夕刻の水木しげる記念館では、地元の警察が飲酒運動撲滅キャンペーンをしていた。そこにはもちろん、鬼太郎とねずみ男の姿もあった。妖怪の世界でも飲酒運転は問題になっているらしい。

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2006年08月19日

白いドレスの女性

 僕には霊感というものがない。学生時分には幽霊なるものを見てみたくて、見てみたくして仕方がないあまり、深夜にいわゆる心霊スポットに赴いてみたりしたこともあったけれど、それでも巡り会うことは出来なかった。一緒に東京は大手町にある将門塚を訪れた時には、夜中の二時くらいに行ったのにもかかわらず上下ジャージで身を包んだおじさんがいて、平将門の歴史と将門塚の由縁を熱心に説明してくれたのが何よりも怖かった。いい加減に聞いているとなんだか説教されてしまいそうで。おじさんは一体何者だったのだろう。熱心過ぎるボランティアというのも怖いものがある。その時も同行したひとりが後になって「首が置いてあったよね」と抜き差しならぬ発言をしたけれど、僕には全く見えなかったのだ。おじさんに神経を集中しすぎていたからかもしれない。
 そういうものには幸か不幸か縁がないと思っていたのだけれど、昨年末に見てしまったのだ、幽霊を。あれは幽霊だったと思う。いや幽霊であってほしい。見たのは友人のマンションだった。皆で鍋でもしようということになって集まった。皆で色々と鍋の準備をしていると、ふと視野の端の方に窓の外を歩く白いドレスの人が入った。涼しそうだった。ほんの一瞬の出来事だった。それがおかしいのだ。時期は真冬だったし、見えたのは友達のマンションで4階だった。その時部屋にはもう一人いたのだが、見た瞬間、僕は見てはいけないものが見えてしまったと思い、もう一人には何も告げなかった。するともう一人が突然口を開いた。
 「今、人が歩いていたよね?」
見えたのは僕だけではなかった。二人でどんな人が歩いていたのかを子細に話し合った結果、二人が見たのは同一人物だという結論に達したのであった。二人して、全然怖そうな感じでなかったことも、ちゃんと付け加えるのを忘れなかった。
 そう。その人(?)は全然怖くなかったのだ。幽霊と言うとどうしても四谷怪談に出てくるお岩さんのようなおどろおどろしい雰囲気を持つ人物を想像してしまうのだが、今回で学んだ。幽霊が恐いとは限らないのだ。今回であった人は、何も声を発しなかったのだけれど、勝手に台詞をつけるとしたら
 「ごきげんよう。」
という感じだった。なんだか軽井沢ですれ違ったかのような雰囲気だったのだ。家の主もそう言われれば見たことがあるような気がするけれど、強烈な印象ではなかったから特に気に留めていなかったらしい。優しい幽霊なのだ。残念なことに友人はそのマンションから引っ越ししてしまったのでもう会えない。次にあの部屋に住んだ人も、優しくあの人に接してもらいたいなぁ。

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