八重垣神社
出雲大社で縁結びのお参りをしたあとは、個人的には天命を待っていれば良いのだと思っているのだけれど、世の中にはせっかちな人もいる。一緒にお参りした友人もそのような人であった。いつの日か、今日の願いを聞いてくれた神様によって良縁に結ばれる、と信じるだけでは物足りない。今すぐにでもその結果を知りたいのだ。
出雲大社からそれほど遠くないところに八重垣神社という神社がある。素盞鳴尊(スサノオノミコト)が、大蛇(オロチ)を退治したあと、稲田姫と新居を構えた地と伝え言われている地に建つ神社の奥の、こんもりとした林の中に鏡の池がある。かつてはこの辺り一面がこのような鎮守の杜だったのだろうが、21世紀の今では、小さな小さな雑木林にしか見えない。恨むべきはこの近代に生まれた自分自身だろう。池の畔からは駐車場が見える。この池は稲田姫が鏡として使ったといわれていて、池にコインを紙に載せて浮かべ、その沈む速さによって縁談を占うという。紙が早く沈んだ方が早く良縁に巡り会えるのだという。
特に結婚願望もない僕だが、折角この地を訪れたからにはその鏡の池の占いとやらをやってみることにした。一緒に訪れた友人は、かなりやる気満々だ。その姿に一抹の不安がよぎる。
「もしここで、僕の紙が友人の紙よりも先に沈んだら、友人はあまり良い気がしないに違いない。」
「もし万が一、友人の紙が沈まなかったりしたら、その後の会話が沈んでしまうの違いない。」
そんな不安を抱えつつ、紙を池の水面にと置くのであった。そんな不安を抱えていることさえ、友人に悟られてはいけない。水面の紙は静かに漂うばかりだった。
無言でそれぞれが紙を見つめても、そう簡単には紙は沈まない。静かに時間が流れていた。そのうち、友人の紙が吸い込まれるように沈んで行った。安堵した。友人の婚期はすごそこのはずだ!
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