刺激してはいけません
最近持っている本をアマゾンで出品して売っている。ちょっとしたお小遣い稼ぎ。大量に部屋に置いてある本を出品していると、中にはプレミアがついているものもあったりして面白い。まぁ大体の本は値がつかないのだけれど。出品した本はコンビニからメール便で送る。大量に出品しているだけあって、売れる時は一日に20冊も売れることがある。宛先を書く僕も手間がかかるが、ひとつひとつ重さを量って伝票を処理するコンビニの人も大変だ。
伝票には重量、送料、処理した人間の名前とともに受け付けた日付も記載しなければならない。その作業を目の前で見ていた僕はあることに気がついた。自宅の近くのコンビニの店員さんには中国や韓国の人も結構いる。その人たちは日付を絶対に西暦で書くのだ。日本人の場合は和暦で18年と書いて、その方がたかが2文字だけれど書く文字が少なくて済んでいる。多くの伝票を効率よく処理しようと思った時には、その差は大きいかもしれない。よくよく考えてみれば当り前のことで、外国の人にとっては和暦なんて「なんじゃそりゃ」なんてものなのだけれど、それに気がついた時にはなんだか新鮮に思えてしまった。
和暦は元号とそれに続く年によって年を表している。飛鳥時代の孝徳天皇による大化がその始まりで、以来15世紀に渡って使われ続けてきているのだ。現在では天皇の皇位継承の際に元号を改めることが元号法によって定められているが、明治以前では不吉なことがあったり、病が流行するつど改元され、そのほとんどは1年から長くて10数年の非常に短い期間しか持続しなかったようだ。その結果、平成までに250の元号が存在している。そんなことは日本に住んでいる外国人は、余程の日本好きでないと知らないだろう。
西暦とは違う暦を今でも使っているところにはイスラム世界がある。イスラム暦は正式にはヒジュラ歴と呼ばれ、預言者ムハンマドがメッカからメディナへ移住(ヒジュラ、聖遷)した年の年初であるユリウス暦622年7月16日をヒジュラ暦元年の1月1日としている。ヒジュラ暦は純粋太陰暦なので、閏月による地球が太陽を回る周期との補正を行わない。一月が29日の月と30日の月を交互に繰り返していく。そうすると1年間が354日となるので、1年ごとに11日ほど太陽暦とずれていくという、日本に住んでいる僕には「なんじゃそりゃ」と思ってしまう暦なのだ。イスラム暦には有名な断食月(ラマダン)があるのだが、これが西洋や日本の暦でいうところの何月に当るのかが年によって違うのはこのためだ。
国や地域によっても結構温度差があるけれど、基本的にラマダンの時期にイスラム圏を旅するのは辛い。イランなどではただでさえ少ない食堂が日中閉まっている。仕方が無いので、お菓子屋でクッキーを買って、ホテルの部屋で一人で齧っていたことを思い出す。
ラマダンの期間中は完全に絶食する訳ではない。日没から日の出までの間に一日分の食事を摂って、日が出ている間は何も口にしないという習慣である。水は勿論、煙草も駄目だ。赤ん坊や病人はどうするんだ!死んじゃうじゃないか!と思ったら、ちゃんと事情のある場合には昼間の断食をしなくても構わないとされている。ラマダンの時期には、お腹を減らしたムスリムが車を飛ばしに飛ばして帰宅するので交通事故が多くなるとか、夜食が盛大になり通常より食糧品の売れ行きが良くなったりとか、微笑ましい一面もあったりする。
原則として異教徒にラマダンは強制されないので、トルコの東部にいた時に道端で煙草を吸ってみた。おじさんがよって来て、「ラマダンだから吸うな」と言ってきた。するとすぐ近くにいた別のおじさんが僕を指して「こいつはムスリムじゃないからいいのだ」とかばってくれた。そうだそうだ、俺はムスリムじゃないのだ、と思っているうちにおじさん同士は喧嘩し始める。困った僕はそそくさとその場を静かに立ち去ったのだった...。いくら吸って良くても、我慢している人を刺激しちゃいかんのです。
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