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白いドレスの女性

 僕には霊感というものがない。学生時分には幽霊なるものを見てみたくて、見てみたくして仕方がないあまり、深夜にいわゆる心霊スポットに赴いてみたりしたこともあったけれど、それでも巡り会うことは出来なかった。一緒に東京は大手町にある将門塚を訪れた時には、夜中の二時くらいに行ったのにもかかわらず上下ジャージで身を包んだおじさんがいて、平将門の歴史と将門塚の由縁を熱心に説明してくれたのが何よりも怖かった。いい加減に聞いているとなんだか説教されてしまいそうで。おじさんは一体何者だったのだろう。熱心過ぎるボランティアというのも怖いものがある。その時も同行したひとりが後になって「首が置いてあったよね」と抜き差しならぬ発言をしたけれど、僕には全く見えなかったのだ。おじさんに神経を集中しすぎていたからかもしれない。
 そういうものには幸か不幸か縁がないと思っていたのだけれど、昨年末に見てしまったのだ、幽霊を。あれは幽霊だったと思う。いや幽霊であってほしい。見たのは友人のマンションだった。皆で鍋でもしようということになって集まった。皆で色々と鍋の準備をしていると、ふと視野の端の方に窓の外を歩く白いドレスの人が入った。涼しそうだった。ほんの一瞬の出来事だった。それがおかしいのだ。時期は真冬だったし、見えたのは友達のマンションで4階だった。その時部屋にはもう一人いたのだが、見た瞬間、僕は見てはいけないものが見えてしまったと思い、もう一人には何も告げなかった。するともう一人が突然口を開いた。
 「今、人が歩いていたよね?」
見えたのは僕だけではなかった。二人でどんな人が歩いていたのかを子細に話し合った結果、二人が見たのは同一人物だという結論に達したのであった。二人して、全然怖そうな感じでなかったことも、ちゃんと付け加えるのを忘れなかった。
 そう。その人(?)は全然怖くなかったのだ。幽霊と言うとどうしても四谷怪談に出てくるお岩さんのようなおどろおどろしい雰囲気を持つ人物を想像してしまうのだが、今回で学んだ。幽霊が恐いとは限らないのだ。今回であった人は、何も声を発しなかったのだけれど、勝手に台詞をつけるとしたら
 「ごきげんよう。」
という感じだった。なんだか軽井沢ですれ違ったかのような雰囲気だったのだ。家の主もそう言われれば見たことがあるような気がするけれど、強烈な印象ではなかったから特に気に留めていなかったらしい。優しい幽霊なのだ。残念なことに友人はそのマンションから引っ越ししてしまったのでもう会えない。次にあの部屋に住んだ人も、優しくあの人に接してもらいたいなぁ。

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