魔女の1ダース
「魔法使いの集会に行ってみませんか」
この本の出出しはこう始まる。魔法使いの集会...なんとも蠱惑的な響きである。エッセイのタイトルからして「魔女の1ダース」だ。登場する魔女は「魔女の宅急便」に出てくるような箒を持った優しい魔女ではないだろう。だって集会してしまうのだ。そりゃ本格的な魔女ならば、箒で空を飛ぶことなんかとうの昔に飽きてしまっている。彼女たちの関心は、いかにお洒落に空を飛ぶことになんかにはもうないのだ。今一番の関心事はきっと世界征服に違いない。しかも誰にも気づかれないようにそっと世界を支配する手段を練っているのに違いないのだ。
なんてことを書いたけれど、この本は最新の魔女の動向に関する調査報告書ではありません。米原万里さんのエッセイ集です。彼女は子供時代を父の仕事の関係でチェコスロバキア(現チェコ)のプラハで過ごしたいわゆる帰国子女である。プラハではソ連の外務省が直接経営する外国共産党幹部子弟専用のソビエト学校に通ってロシア語で授業を受けたのだという。日本に帰国後、東京外国語大学、東京大学大学院で学んだ米原さんはロシア語の通訳をすることになり、そこで経験したことをエッセイで綴るようになった。
米原さんのエッセイには多くの小咄が登場する。ただ可笑しいだけではない。そこには必ずと言っていいほど揶揄が入っているのである。そしてその揶揄は権力者や強者に対して向けられる。日本という社会と、共産圏という社会の違う価値観の中で過ごした経験のある米原さんは、異なる世界観や価値観の片方を無意味に持ち上げたりはしない。狭間で揺られながら冷静にその両方を観察し、そのどちらに対しても毒を吐く。世の中に毒舌の人は多いけれど、その毒の中にウィットを混ぜることの出来る人はそうそういない。惜しい人を亡くしたものである。
| 魔女の1ダース―正義と常識に冷や水を浴びせる13章 | |
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