給湯室
日暮里の駅を出て南千住の方に歩いていくと途中にはEDWINと書いてある建物があった。アパレル・メーカーの株式会社エドウインの本社だ。幼い頃はEDWINというブランドからてっきり外国のブランドだと思っていたけれど歴とした日本のブランドなのだ。調べると1960年代に日本で初めてジーンズを製造した会社とある。通り過ぎようとしたら、中から男性が出てきた。初老の男性だった。アパレル業界で働いている男性なのであろうか、ちょっと小洒落ている。パリッとしたシャツにジーンズだ。ジーンズのポケットにはもちろんEDWINと書かれている。
ふと疑問が湧いた。この男性は自分の好みで自分が働く会社の製品をはいているのであろうか。それとも社内では自社製品をどこかしらに身に付けないといけないからはいているのだろうか。自社製品を気に入っているということもあるだるけれど、他社の製品だって使ってみたいと思うこともあるはずだ。トヨタの社員だって日頃はカローラに乗っていたとしても、心の中ではポルシェに憧れているかもしれない。そうレクサスのSC430ではなくて、ポルシェにだ。SONYの社員だって齧られた林檎のマークに憧れている人だっているかもしれない。
それが高じると、もう社内では立派なマイノリティに違いない。アオキの社員がコニカのスーツを着て出社した日には、もう後ろ指を指されるのは確実だ。女子社員は給湯室で囁き合う。
「ねぇ、知ってる?総務の田中さん、コニカのスーツで会社に来ているのよ。」
噂の広まりは早い。あっという間に部長の耳に入ってしまう。田中さんはより一層の窮地に立たされてしまうのだった。とある日の午後、部長が田中さんのところにやって来て言う。
「済まないが、君は来月から小笠原出張所へ赴任してもらう、理由は分かっているね。」
なんてことになりかねない。多勢に無勢。長いものには巻かれよ。サラリーマンは無用な争いは避けるのだ。
それにしても、やはり下世話な噂話には給湯室がよく似合う。何故だろう。
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