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あぐらをかけない人々

 日本から西に向かうと、トルコまでは茶文化圏である。大雑把な表現をすると、トルコより東の国々は、日常の飲み物としてお茶を飲む国である。中国ではもちろん、中央アジアの国々でもお茶を飲む。チャイハナと呼ばれる喫茶店で誰でも気軽に飲むことが出来るのだ。大抵の場合は、チャイハナのお店の中というか、外というか日が当たらないような場所にベッドのような台が幾つかあって、そこに靴を脱いで上がって茶を楽しむことになる。なぜだかちょっとした高床式の喫茶店。中央アジアの諸国で茶は「チャイ」だ。何も言葉が分からなくとも、アジーン・チャイ(アジーンはロシア語で数字の1)とでも店員さんに言っておけば茶が出てくる。喉の乾きを潤せる。
 チャイと一口に言っても、この辺りの国では二種類のチャイがある。カラ・チャイとコク・チャイだ。カラ・チャイは日本で言うところの紅茶に相当し、コク・チャイは緑茶に相当する。どちらを頼んでも急須のような容器と茶碗のような器を持ってきてくれる。でもミルクはない。中央アジアにはミルク・ティはないようだ。その代わり緑茶にも砂糖を入れることがある。
 ウズベキスタンのタシケントを旅していた時、一緒に食事をした地元の人が別れ際に僕にビニール袋を手渡した。手にするとズシリと重い。中を見ると袋一杯に氷砂糖が入っていた。見た感じは水晶のようだ。どうやら僕にくれるらしい。彼は片言の英語しか話せなかったので、言っていることがイマイチ不明瞭なんだけれど、どうやら旅の道中で茶に入れて飲んでくれと言っているようだった。なんといい人なんだ!とひとしきり感激した後、僕はその数キロする氷砂糖の袋を持ち歩いて旅をしなければいけない自分の姿を連想してしまった。宿に帰って、他の旅行者にあげたり、自分でパキパキ折って緑茶に入れたりしたけれど、呪いのように氷砂糖は減らないのであった。
 中東の国々でもそうだけれど、中央アジアでもチャイハナは社交場だ。良い年をしたおじさん方が日の高いうちから、ウダウダと話に興じている。話のネタは近所の不倫話なのか、汚職まみれの政権なのかは残念ながら分からなかった。中央アジアの人々は建前上イスラム教徒になっているようだけれど、町中では普通にウォッカが売っている。でも昼間からアルコールを飲んでいる人は見かけない。大の大人もチャイなのだ。チャイ万歳!!
 旅をしている間、毎日かかさずチャイハナに通っていた。チャイハナでは前に書いたようにベッドのような台に靴を脱いで上がるのだが、ふと僕はあることに気がついた。あぐらをかいている人が誰もいないのだ。正座をしている人やあぐらのような足を組んでいる人はいるのだけれど、正真正銘のあぐらは一人もいない。中央アジアではあぐらをかく習慣がないようだ。と、ひとりごちて僕は砂糖入りの緑茶をズズッと啜っていたのであった。

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